生きることは、だから美しい

「見たことのない明日へ」

担降りが「ひと夏の恋」になった。

 

―あれは、夏の幻だったのかもしれない

 

 

 

「いつか」の話をしよう。

 

その頃応援していた子が、ちょっとずつ違うなと思い始めたのはある年の春のことだった。

 

その子を見つけたのはまだ入所間もない時期で、この子をずっと応援していきたい!そう思っていたはずなのに、月日が経つにつれ自分の気持ちに迷いが生じるようになっていた。

もちろん顔は好きだったし、真面目に取り組む姿も好きだった。なにもかもがこれからなのはわかっていたが、言葉では言い表せない、何かが違っていた。

 

自分の気持ちが自分でもわからず、この先どうしようか悩んでいたとき、友人の付き添いで入ったあるグループのコンサートで私は心を射抜かれた。

セットリスト、振り付け、構成。それは全てにおいて計算し尽くされた完璧なステージだった。普段、他のグループで見ているようなtheアイドル感こそ抑えられていたものの、「魅せる」ステージを作り上げた、その中にいた彼に心を奪われた。

 

一人と欠けることなくダンスが上手かった。全員のダンスが揃っているのに、輪を乱すことなく個性を発揮し、視線を奪うように全力で踊る彼が気になって仕方なかった。

彼は元々顔がタイプだった。ダンスも上手い。歌も歌える。トークも回せる。笑いも取れる。欠点はなかった。全てが魅力だった。

 

その夏私は担降りすることを決めた。

彼と、彼がいるグループを応援していきたいと思ったから。

 

しかし現実は残酷だった。

 

担降りを決めた1ヶ月半後、彼はジャニーズを辞めた。

 

正確には、彼がジャニーズとして臨んだ最後のステージで、チームメイトのアドリブによって察することとなった。

 

「辞めるらしい」

その噂は降りてすぐ友人から聞かされた。と言っても一方的に言われた訳じゃなく、私の状況を察して「私の口から言うことじゃないと思うけど」と話してくれた。理由は聞いていない。この世の中には知らなくていいことだってある。

信じたくない、そんなことある訳がない、そう思いながらも無理を言って休みを貰い、最後となってしまうかもしれない公演のチケットを抑え、胸が締め付けられるような思いのまま、絶対に来てほしくなかったその日を迎えた。

 

―アドリブの瞬間「噂」 が「現実」になってしまった。私の1パーセントの望みは儚くも崩れ落ちた。ほんの少しだけ、わずかに残していた希望の光が一瞬にして消え、目の前が真っ暗になった。

 

そして彼もまた、ステージ上で涙を流していた。必死に笑顔を作りながら、溢れ出る涙をこぼすまいと天井を見上げて。

それはまるで卒業式を見ているようだった。

 

それから数日後、発売された雑誌に彼の姿はなかった。

 

 

―あの時の高揚感を鮮明に覚えている。

担降りを決めた日、目に映る景色の色が変わったことを。

 

これからのヲタク生活が楽しみで仕方なくて、心を踊らせていた。幼い頃の遠足前夜のようなワクワク感を毎日感じていた。

うちわは何色にしよう、現場へは何を着ていこう。会うまでに痩せないと。化粧品も新調して、肌のコンディションを整えて、そうだ、美容室も予約しなきゃ―。

 

彼に恋をしていたんだ。

 

それは結果として、たった1ヶ月半の、ひと夏の恋の記憶としてわたしの心に刻まれることになったけれど、それでも、降りたことに後悔はしていない。もし仮に、降りる前に退所する噂を耳にしていたとしてもきっと降りていた。それほどまでに、彼のことを好きになっていた。

 

もちろん、もっと前から見ていたかったって思わないと言ったら嘘になる。

できることなら入所当時に戻りたいし、最初から応援していたかったし、入りたかった公演を数えたら両手両足足しても足りない。

でも過去は変えられないから、何を言ったって無理だから、だからこれからを後悔しないように、って思った矢先だったのに。

 

担当がいつまでもジャニーズでいてくれて

ステージに立ってくれて

雑誌に載ってくれて

テレビに出てくれて

 

それが当たり前になってたけど、そうじゃなかった。

すごくすごく、特別なことだった。

それに気づくのはあまりにも遅すぎて

気づけた時には手遅れだったんだけど

 

ジャニーズで青春を送ってくれてありがとう。

 出会ってくれて、ほんとうにありがとう。

 

この気持ち届いてますか?

 

 

ねえ、

 

どうか幸せになってね。

 

絶対絶対絶対、この世界中の誰よりも

幸せだって胸張って言える人生を歩んでね。

 

 

美しい思い出を誰にも邪魔をされないように、綺麗なまま、色褪せぬよう、心に鍵をかけてしまっておこうと思います。

 

立ち直るにはまだまだ時間が必要だけど、いつかちょっとずつ記憶から薄れていって、今の気持ちをさほど鮮明に思い出せなくなったとしても、

それでも、もしも

 

 

いつかまた、彼に会えたら―。

 

 

また手紙を書いてもいいかな?と、その言葉を残したまま最後に手紙を贈ることを諦めてしまった私の、一番伝えたかった言葉を。

 

 

 

「わたし、幸せだったよ!」

 

 

 

 

 

季節はめぐりめぐって

君とまた出逢うでしょう

別れたその時より

素晴らしい場面

僕のこの目の前に

やってきます

いつかきっと・・・

 

(We'll Be Together / 少年隊)